


損料屋さん…あなたはいったい何者ですか?ハードボイルド時代小説に、人情と経済ミステリーを足したような読み応えある作品でした。(Kerog*)
内容
上司の不始末の責めを負って同心の職を辞し、刀を捨てた喜八郎。庶民相手に鍋釜や小銭を貸す損料屋に身をやつし、与力の秋山や深川のいなせな仲間たちと力を合わせ、巨利を貪る札差たちと渡り合う。田沼バブルのはじけた江戸で繰り広げられる息詰まる頭脳戦。時代小説に新風を吹き込んだデビュー作。 (「BOOK」データベースより)
損料屋という面白い職業に惹かれて読み始めた本書。
しかしそれは仮の姿。ひょんなことから知り合った札差・米屋の先代が、上司の罪をかぶって同心を辞した喜八郎に、米屋の跡継ぎ息子を見守ってくれと用意してくれた表家業でした。
先代亡き後、あくまでも損料屋として息子政八に近づいた喜八郎でしたが、いよいよ米屋の身代が傾き、先代との約束を果たすべく暗躍する。そんなあらすじでした。
感情に流されず、無口で、心の動きは目つきの変化程度でしか伺いしることができない。そんな喜八郎ですが、とても存在感がありました。冬場にも綿入れを着ず、素肌に着流し姿が妙にいけてる江戸っ子で、素手でもめっぽう強いし、剣もいける。見る人が見ればただ者ではないことが分かる立ち居振る舞いのクールガイ。しかし、冷酷非道ではなし、先代に受けた恩を返すための暗躍だから、ハードボイルド+人情派というなんとも不思議な人物です。
また、喜八郎のやり方は主に頭脳戦。
特に一話は、アクションもほとんどありません。相手との睨み合い、腹の探り合いです。実は私、ただでさえ喜八郎の人柄が伝わりにくい設定なのに、この腹の底を見せぬ頭脳戦のおかげで、最後まで彼にがっちりと肩入れできなくて、終盤までこの作品の面白さを計りかねていました。しかし、いつのまにやら物語に入り込んで、この一話目の幕引きの見事なシーンに拍手喝采。伊勢屋の今後を想像すると、思わずニヤニヤしてしまったくらいです。
そしてその続編的な二話目。
これはこれで面白かったですが、正直いって無くても困らなかった。一話で泣かせてやった伊勢屋の意趣返しです。
三話目は、書き下ろしで、気持ちがいい人情もの。
経済ミステリーも頭脳戦もなく、人情ものに徹した内容ですが、喜八郎のハードボイルドアクションがあります。秀弥との距離がほんのちょっと縮まり、下町の暖かさがこぼれんばかり。煙いシーンも心爽やか。そして伊勢屋の変化が次への期待を高めます。続編というより番外編というところでしょうか。
四話目もちょっと長めの書き下ろし。
経済ミステリー復活に、人情話、喜八郎ファミリーのアクションもありの欲張った内容。互いがしかける罠と罠に、結末が予想できない展開でした。
紅一点の江戸家の女将・秀弥との何か起こりそうで何も無い距離感がいい。秀弥のライバル予備軍となりそうな秋山の娘の登場、さらに伊勢屋のツンデレ発覚は、もう次回作への誘導としか思えません(腐)!!煽られてしようがない、バカな読者の私です。
しかし、ちょっとすっきりしなかったのは、喜八郎と先代米屋の関係です。
手下はゾロゾロ。間口二間とはいえ、隣の土地には彼らが集合できる家屋付き。そんなあれこれが、全部先代米屋が用意してくれたものという事ですが、いくら商売が上手くいっていた米屋とはいえ、息子が心配という理由だけでそこまでするかな。親バカだとしてもほどがあるっていうか。もし義理人情でここまでできるとしたら、米屋の懐の深さに感服します。
もう一つ、損料屋という仕事がいくら仮の姿でも、その仕事に関するシーンは皆無というのは、残念。そこを掘り下げると、さすがに損料屋が客商売だけに、せっかく出来上がっている喜八郎の人物像や作品の雰囲気が壊れる恐れもありますが、タイトルにでもあるし、市井の雰囲気も楽しみたいなぁと、欲張りな私は思うわけです。次回作では、その辺りを期待したいです。
それにしても、武士が禄=米を金に代えるうち、貸金も請け負うようになった札差屋は、現代のサラ金でしょうか。しかし一年先や二年先ならまだしも、その先までの禄米を担保にするんだから、いまさらですが、武家って本当に大変だったんですね。
2005年1月読了